・物語を一作品以上書いたことがある
・現在進行形で書いている
・物語が上手く書けなくて悩んでいる
『プロだけが知っている 小説の書き方』はどんな本?
小説投稿サイト「ノベルアップ+」より、小説投稿者の方々から寄せられた「創作のお悩み」に著者の森沢先生がお答えするという内容の本となっています。
目次に連なる質問内容を見ただけで、同感し過ぎて首が痛くなります……。それと同時に、プロの小説家の回答はどうなんだろう?とワクワクしてきます。
質問内容や解説に対して、自分はどうやってたっけ……?と照らし合わせながら読むのがおすすめです!
物語を書いたことのある人なら、ほぼ全ての疑問にぶつかるんじゃないかなと思うくらい、絶対に全ての疑問には目を通すべきだと思いますが……今回は、個人的にこの答えは予想外だった!という項目をピックアップして、感想と共に紹介します!
この本の著者
森沢明夫さん
早稲田大学卒業後、編集者、フリーライターを経て小説家に。
『虹の岬の喫茶店』『あなたへ』『夏美のホタル』『きらきら眼鏡』など、数々の著作が映画化・ドラマ化・コミカライズされており、多くのヒット作品を生み出している方です。
そして筋トレ好きのつよつよメンタル作家さんです。(これは私が勝手にそう呼んでいるだけです)
STEP1 ネタを考える
Q1 ネタがひらめきません
小説のネタは、じつはあなたの周りにいくらでもある
プロだけが知っている 小説の書き方 森沢明夫
ネタは自分の頭の中で勝手に浮かんでくるのではなくて、周囲で起きた物事をどうやってネタとして変換するかが重要、ということを教えくれるQ&Aです。
中でも私は森沢先生のこの言葉に感銘を受けました。
小説家にとって不幸な出来事=取材のチャンス
プロだけが知っている 小説の書き方 森沢明夫
森沢先生は、自分の身に起きた「不幸」に対し「取材」と称して、観察するのだそうです。
ほとんどの小説は、キャラクターの成長物語であり『不幸から立ち直る人間の成長ドラマ』はいいネタになる。そういう心構えで、私も日常にアンテナを貼っておきたいと思いました。
また、Q2にて著者の方の「ネタ探し方法」もかなり役に立つと思ったので、こちらも必見です。さすがポジティブコンバーター(勝手に命名)森沢先生……と舌を巻く内容でした。
Q7 ネタのマンネリ化から脱却するにはどうしたらいいですか?
著者の答えは『マンネリ化には興味のないジャンルの乱読』とのこと!
めちゃめちゃ物理攻撃!って感じのインプット方法!と思ったものの、マンネリ化の原因を聞けば、その通りだと頷くしかありませんでした。
私も、全く違うジャンルの話なのに、一部展開が被ってしまうことがあったり、書き終わってから「あれ、これってあのシーンと流れ同じじゃ……?」と気付いたりすることがよくあります。そして何より食わず嫌いなので、このご指摘はかなり身に染みました。
Q11 ネタをもっと斬新なものにしたいです。何かいい方法はありませんか?
この質問には、三題噺を使ってみよう、とのアドバイスをもらいました。
三題噺とは、落語で、お客さんが出した三つの「お題」すべてを使いながら、ひとつひとつの物語にまとめることを言います。
プロだけが知っている 小説の書き方 森沢明夫
私も三題噺にはちょっとだけ挑戦してみたことはありましたが、一体これはどんな役に立つのか?と、やる意味を深く考えたことはなかったので、すぐにやめてしまいました。
でもこちらのアンサーを見て、お題を使った小説作りにもっと挑戦したいと思い直しました!
特にこの質問で響いたのは、著者はこのお題を元に執筆した作品でヒット作を生み出しているということです。お題が自分の範疇外だとしても受け入れる姿勢がプロだ……と実感しました。
森沢先生の著書『キッチン風見鶏』(ハルキ文庫)では『海がある街』『レストラン』『熟成肉』『戦争』(最初の三つは繋がりそうだけど、最後の戦争!?って思わずびっくり)の四つのキーワードが盛り込まれているそうです。
改めて、先生の物語を読んで勉強してみたいと思いました!
STEP2 設定を考える
Q17 魅力的なヒロインを描きたいです。作者自身がヒロインに恋をしているほうがキャラは魅力的になりますか?
こちらの質問はなかなか面白い角度の質問だなぁと個人的に感じました。
女性で言うといわゆるガチ恋とかリアコと言われるくらい、自分のキャラクター(ヒーロー)にのめり込んでいた方が、より深い設定を考えられそうな気がするけれど……、でも「制作者側が一人のキャラクターを気に入り過ぎて、ストーリーが破綻した」なんて言われてしまう作品もありますよね。なかなか難しい質問ですが、先生ははっきりと答えてくれています。
恋をするなら設定段階まで
プロだけが知っている 小説の書き方 森沢明夫
森沢先生は、具体的な距離の取り方と、どこからどこまでが恋をしていいかの境界も具体的に解説してくれています。
自分自身も、キャラクターに恋をする感覚はものすごくわかるので、甘々ベタベタにならないよう、恋をしていることがメリットになる範囲内でキャラを描かなければならないな……と肝に銘じようと思いました!
STEP3 プロットをつくる
Q22 プロットのつくり方がわかりません。
最初は3行で大丈夫。そこから徐々に肉付けして
プロだけが知っている 小説の書き方 森沢明夫
最低限の3行を書いたら、シーンを肉付けしてして膨らませていくやり方をお勧めされています。
その3行ってどんなことを書くの!?
という方も安心です。具体的に3つの項目も示されていて、有名な作品を例にも挙げてくれているので、とてもわかりやすいです。
ですが私は、森沢さんのどんどん頭に浮かんだシーンを書き加えていくスタイルがとても楽しそうだなと思ったので、ぜひ次に書く物語は森沢スタイルで挑戦してみようと思いました!
この質問はQ23やQ31質問と答えも参考になると思います。
Q31で先生もおっしゃっていますが、プロット作りは、作るかどうかも含めて人それぞれとのことなので、いい意味でプロット作りに正解はないようです。
スタンダードなやり方はあるとは思いますが、自分に合ったやり方こそが最適解なのだと思います。たくさん物語を書きながら探しても良さそうなので、色々チャレンジしてみたいと思いました!
物語の構成は型に合わせてつくったほうがよいのでしょうか?
ここで本書の肝、森沢式『W理論』が紹介されています!
本書ではちゃんと図解付きで解説されているので、わかりやすいです。物語の構成で悩んでいる人は必見です。
250〜300ページくらいの一般的な長編小説をベースとした、主人公の幸福度の起伏と、時間軸を示したグラフで解説されています。
その中で解説されているのは、ざっくり以下の項目です。
・リアリティと共感を与えやすいスタート時の幸福度の設定
・読者を釘付けにする出だしのコツ
・3つの不幸の原因と幸福の原因
・伏線を仕込む箇所と回収箇所ポイント
・物語終盤で筆を置くのはどのタイミングか
・プロローグを使ったテクニック
吸収したい!と思うノウハウが盛りだくさんです。
さらに面白かったのは、このW理論を使ったサイドストーリーの書き込みです。主人公をメインとして、ヒロインや敵、サブキャラの幸福度を入れ込むことで、より物語に深みを出せるというところです。
W理論に則った表を作っておけば、各シーンでの他のキャラクターの立ち位置や感情がブレずに済んで、矛盾した行動も取らせづらくなるんじゃないかなと感じました!
およそ15ページにわたって細かく丁寧に説明された、本書のメインディッシュです。
これまでのQ&Aよりも長めの解説となっていますが、例えも踏まえながら丁寧に解説されているので、説明の難しさは全く感じません。
ここは物書きならば必ずチェックして頂きたいところです!何度も読んで確実に理解を深めるべき項目です。
コラム3 「遊び心」を作品に忍ばせる
本書は、Q&Aのみならず、森沢先生のコラムも見どころがたくさんあります。中でも私はこのコラムが素敵だと思ったので紹介します!
自分でも「やめときゃいいのに」と思うのですが、ぼくは小説を書くときに、いつも決まって伏線を仕込みます。
プロだけが知っている 小説の書き方 森沢明夫
それも、ひとつやふたつではなく、何十箇所も――、です。
森沢先生の作品は『初心者向けの伏線』や『上級者向けの伏線』それから『森沢作品研究者向けの伏線』までとり揃えているのだそうです。
森沢先生の『創作の喜びの形』素敵だなぁと思いました。
著者は謙遜を込めて『アホな行為』『ぼくの「自己満足」のため』とおっしゃっていましたが、深く作り込まれた作品や作者の方の熱意が高いほど、マニアしか気づかない伏線が多くあるのだと感じます。
加えて、マニアしか気付かない伏線を入れている作品ほど、その作品を心から愛してくれるファンがついている、とも感じました。
きっとそれは、何よりも作品に楽しさを見出している作者さんだからこそできることなんだろうなぁと思います。
私もマニアックな伏線作りができるくらい濃厚で深い作品作りに励もうと、肝に銘じようと思います!
STEP4 原稿を書く Part1
Q36 人物描写がうまくいきません。
この項目を読んだ時、ハッとさせられました。思わず途中で本を一旦閉じて、自分の書いた物語の「なんか面白くないなぁ」「自分が書いたものなのに、目が滑るなぁ……」と思っていた部分を見直し、愕然としたほどです。
ズバリ言うと、「人物を説明するための文章」を書いてはいけません。
プロだけが知っている 小説の書き方 森沢明夫
正解は、「物語の流れの中で、自然と読者に人物を理解させる文章」を書くことです。
当方はバッチリ『よくある失敗例』として書かれていた形でキャラクターの描写をしておりました……。
けれども、ようやくはっきりしました。自分の物語の漠然とした面白くない感じは、こういう理由だったんだなぁと……。
このパターンでついつい書いちゃう方、結構多いんじゃないでしょうか?個人的にはかなり為になる回答です。
Q39 情景描写のコツを教えて下さい。
悪い例と良い例のふたつが用意されているので、どこがどう良くないのかが分かりやすいです。
冗長にならず、しかし、読者に伝えるべきことをしっかり伝えるには、「短いひとつの文章のなかに複数の必要な情報を詰め込むこと」が効果的なのです。
プロだけが知っている 小説の書き方 森沢明夫
そしてその情報は五感を使って描写するとさらに場面のイメージがしやすくなることが説明されています。
カンガルーさん
(どういう文章がイメージしやすいのかはわかったけど、実際に自分が書くときにはこれだけじゃ書ける気がしない……)
と思うかも知れませんが、大丈夫です
その五感の使い方と、さらに読み手にイメージしやすい情景描写のコツはQ40を見れば腑に落ちると思います。
Q46 文章力を上げるために、ふだんからやるべきことはありますか?
著者のつよつよメンタルを見習いたいと思った回答でした。
この質問への回答のメインは『なるべく感情を書かない』ということですが、そのコツとして紹介されていた、森沢さんの『小さな心の揺れ』を『身体で味わう習慣』が最強です。
余談ですが、じつは、ぼくは嫌な感情が生じたときほど、じっくり丁寧に内観し、味わうようにしています。つらいとき、悲しいとき、悔しいとき……、自分の心と身体の感覚から逃げず、あえてじっくり向き合って「身体の感覚」を観察するんです。
プロだけが知っている 小説の書き方 森沢明夫
Q1でもおっしゃっていたことですが、嫌なことでも不幸なことでも、自分の身に起きたことは全部取材案件!という逆境への強さが滲み出ているアドバイスです。
こういう考え方、めちゃめちゃ大好きです。畏敬のレベルです。
アンガーマネジメントにも繋がって、自分自身の成長にもつながる素晴らしい考え方だと思いました!
私も嫌なことがあったときは「なんかイラッとするなぁ」ではなく、身体がどういう反応をしているのか細かく観察して、自分への取材としてメモを取ってみようと思います!
全体感想
作家になるには……そしてより多くの人に刺さる作品を書くには、数多くの作品を書くこと、ネタを生み出すことが大事。
そのためのノウハウを教えてくれているのがSTEP1です。
次のSTEP2では物語よりもキャラクターに重点をおくスタンスと、その理由が丁寧に書かれています。
著者のアドバイスに則ってキャラクター(主人公やサブキャラ達)を深掘りしていけば自ずと物語が出来上がっていく仕組みになっているように感じました。そのノウハウは本書の中にたっぷりと描かれているので、ぜひ直に読んでノウハウを取り入れて頂きたいです!
また、全体を読んでいて気づいたのは、物書きさんが各所でつまずくポイントには、かなりの確率で「キャラクターの創り込みの甘さ」が関係しているということです。
「かなり濃厚な設定を盛り込んだぞ!」と思っていても、私たちは思っている以上にキャラクターの創り込みがまだまだ浅い可能性が大いにあります。
まだまだアマチュアな私達が特に重視すべきなのは、この2つのステップの習熟だなと感じました。
別件ですが、私は筋肉=最強と考えている人間で、鍛えることが好きです。
なので、森沢さんがゴリゴリの筋肉小説家(とはご本人は言っていません。私がそう勝手に呼んでいます)だというコラムは、個人的にかなりワクワクしました。
プロが執筆のために体を鍛えているなんて、私も鍛えまくるしかない!と背中を押された気分です!
知識と共に、間違いなくモチベーションも向上させてくれる一冊なので、小説家を目指すみなさんも、是非読んでみてください!